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2016年9月2日
離島を中心に行なわれている電気自動車(EV)導入の取り組みについて、これまで、沖縄県沖縄本島・宮古島、長崎県五島列島・壱岐、鹿児島県屋久島、新潟県佐渡、香川県小豆島・豊島などで幾つかのプロジェクトが行われてきました。それらプロジェクトがその後、どうなったのか、本コラムで複数回にわけて取り上げています。
第一回はレンタカーEVとして、最も多くの台数が導入された沖縄本島を取り上げました。続く本日のコラムでは、沖縄本島に次いで数多くのEVが導入された長崎県五島列島を取り上げてみたいと思います。
◯GoGoEV関連コラム:
-【EV】離島地域のEV&充電スタンド事情(第一回; 沖縄本島)(2016年8月29日付)
-【EV・PHEV】長崎県・五島のEVに関する取り組み(2014年8月1日付)
沖縄でのリーフ220台導入に先立つ1年前の2010年、長崎県五島列島に140台のEVおよびプラグインハイブリッド車(PHEV)が導入されました。プロジェクト規模は2009年度より5年間で総額12億円となり、車両の調達費用に5.2億円、充電器の整備に1.2億円が使われました。財源としては、道路特定財源を一般財源化した社会基盤整備総合交付金だとのことです。
▲五島列島に導入されたi-miev(出典:長崎県ウェブサイト)
導入当初、五島列島での取り組みは世界から注目され、世界エネルギー機関が発行する「EV CITY CASEBOOK 2012」にも、アムステルダムやベルリン、ニューヨークなどと並んで紹介されていました。それから4年、五島列島のEV事情はどうなったのでしょうか。
▲EV CITY CASEBOOK 2012に取り上げられた地域
長崎で行われていたEVの導入はEV&ITS(エビッツ)という実証プロジェクトの一環で、五島列島をモデルケースにEVと観光ITSを結びつけたプロジェクトとして体験型観光を提案し、結果的に人口減少や経済の衰退を防止しようとする取り組みでした。
EV&ITSプロジェクト自体は2014年3月で終了したのですが、その後もEV自体は五島のレンタカー業者を中心に保有され続けました。これは、沖縄と異なり、プロジェクト開始から大手ではない地元のレンタカー会社が自社サービスの一環として積極的に取り組んできたからかもしれません。
▲地元レンタカー会社の「レンタカー椿」(出典:レンタカー椿ウェブサイト)
2016年夏時点で、五島列島にはEVは150台以上保有され、沖縄同様、個人所有も徐々に広がっているようです。
当初、五島列島には14箇所に27基の急速充電スタンドと、30箇所の100V/200V普通充電スタンドが設置されました。EVならびに充電器が設置された島は、いずれも沖縄本島に比べて小さく、i-mievであっても途中1度程度充電するだけで、十分に島を周ることができます。それにも関わらず、十分すぎるくらいの充電スタンドが配備されました。
さらに驚くのは、急速充電スタンドは各スタンドに平均2基ずつ設置されました。その後の国の補助金で設置された急速充電器が、平均1基であることを考えると、当時としてはとても贅沢な投資であったと思います。しかし、そのお陰で、観光客にとっても電欠の心配が随分少なくなったものと予想されます。
現在、それら急速充電スタンドは五島市ならびに新上五島町が主体的に運営する協議会により運営が継続されているようです。
▲充電スタンド稼働状況(出典:五島市急速充電設備一覧ウェブサイト)
五島列島のEVを用いたプロジェクトの中で、最も失敗したと思われるのがナビとITSシステムを用いた観光案内サービスではないでしょうか。筆者は2013年に初めて、五島列島でEVを借り、このシステムを使ってみましたが、既にその時点でほとんど使い物にならないと感じた事を覚えています。
そして、2016年に再度、i-mievのEVレンタカーを借りた際、3年前の観光情報からほとんど何もアップデートされておらず、何のためのシステムだったのだろうと疑問に思いました。EV&ITSプロジェクトが始まった2010年当時はスマートフォンの普及がちょうど始まった頃だっただけに、ナビによる観光案内のようなシステムがまだ有効だと考える向きもあったのかも知れません。
▲ITSを用いた観光情報サービス(出典:長崎みらいナビin五島ウェブサイト)
とはいえ、単なるカーナビとしては有効ですので、その意味で、ある程度の意味はあったと言えそうです。
五島市では年に数回、市が保有するEVを用いた小学生・中学生向けの試乗体験なども行っているようです。EVの普及が進んでいる地域とは言え、普段EVに接しない子供たちも多く、行政機関が積極的にEVの啓発に取り組んでいます。また、EVの蓄電池としての活用法として、お菓子を焼いて提供するなどもしているみたいです。
EVがある程度身近になってきたからこそ、裾野を広げ、より深く知ってもらうためのとても興味深い取り組みですね。
▲EVを用いた環境教育の様子(出典:日本財団ウェブサイト)
以上、今回は沖縄に続き、五島列島の事例について見てきました。その結果、沖縄とは異なった「成功事例」、「失敗事例」がある事に気付かされました。まとめると以下のことが言えると思います。
・五島列島では観光客向けEVレンタカーが定着した。その理由は、大手レンタカー会社ではなく、地元レンタカー会社が積極的に取り扱ったためと考えられる
・維持費がかかる充電スタンドは、地元行政機関が中心となって維持している
・プロジェクト開始当初に期待されているナビおよびITSシステムを用いた「観光案内」は期待はずれとなった
・人口比に対してEVの普及が進んでいるため、教育への展開なども行われはじめている
五島列島ではおよそ6年間に渡ってEV導入の取り組みが進められてきました。その結果、地元の人達(五島列島の場合はレンタカー会社)および地元行政機関が粘り強く取り組みを続け、時間がかかるものの徐々に浸透し、結果的に教育現場などへの応用も進むことが示されました。
全国的にはEV・PHEVはまだまだニッチな乗り物という部分もあろうかと思います。しかし、本当に社会的に受け入れられるには数年の地道な取り組みが必要であり、その延長に本格的な普及があることを五島列島の事例は示しているのかも知れません。今後、i-miev・LEAFに限らず、BMW i3や新型プリウスPHVなどもレンタカーでお目見えすることを期待したいと思います。
次回(来月)は、沖縄県宮古島および香川県小豆島の取り組みについて、「その後」を取り上げたいと思います。
●参考ウェブサイト:
-地域イノベーションエコシステムの創生と発展メカニズム:長崎 EV&ITS コンソーシアムの事例(研究・イノベーション学会・2015年 年次学術大会講演要旨集)
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