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2014年8月11日
いつ電気自動車は競争力を持つの?
この疑問に対して面白い視点で解説している海外の記事がありましたので、ご紹介いたします。この記事はハーバード・ビジネス・スクールの教授、クレイトン・クリステンセンの著書「イノベーションのジレンマ」(1997年発売)で紹介された電気自動車の普及のポイントに沿って、電気自動車(EV)の競争力についてボストン大学のJohn C. Briggsが解説したものです。
EVが普及するポイントは「最高速度」、「航続距離」、「加速」だと考えられています。普及には勿論、「コスト」、「充電時間」、「インフラの数」も重要ですが、少なくとも発売後20年間は、EVの普及において、最初の3点がポイントと考えられておりました。
そこで、John C. Briggsは、イノベーションのジレンマが発売された1997年から20年間の動きを調べることでクリステンセンの考えが正しいか検証し、同時に、クリステンセンの考えに従った場合、EVがいつ競争力を持ち始めるのか考察するため、1975年から40年間に発売された50車種の電気自動車について、「最高速度」、「航続距離」、「加速」について分析しました。
「イノベーションのジレンマ」では、法律で定められている最高速度等を考慮すると、電気自動車は80mph(1時間あたり80マイル)、つまり時速129kmの最高速度が出せれば十分だと結論づけています。1970年代の最高速度はおよそ30mph-40mphで、この80mphを満たすのは非常に難しいと考えられていました。しかしながら、下記グラフを見てもわかるように、2010年以降に発売された車のほとんどがこの基準以上の最高度を示しています。
例えば、特にテスラモーターズの「ロードスター」や「モデルS」は最高速度130mphまで出すことができるようになっており、2014年時点では、EVは最高速度に関して十分な競争力を有すると言えます。
▲過去50年間のEVの最高速度の変遷
クリステンセンは、ガソリン車から電気自動車に買い替えるには、125mile - 150mile(約190km-240km)は必要だと提案しています。これは、ドライバーが1日の運転する距離に立脚して考えられた値です。
図の黒線は、クリステンセンが90年代後半の電気自動車を基に引いたラインですが、ラインの傾きは正確だと思われる一方で、航続距離に現実と25mileほど差があると考えられるため、改めて赤線で引き直しています。この赤線を見てみると、航続距離が1年におよそ2.5%ずつ改善されている事がわかります。この傾向によると、2030年までには電気自動車は125mileの基準を越えることになります。つまり、航続距離に関して競争力を持ちようになるのは、2030年頃と言えそうです。
もちろん、テスラモーターズの「モデルS」など、既に125mileを越え、ガソリン車と同程度の航続距離を有する自動車も存在し始めています。その一方で、日産リーフなどと比べ、価格が2~3倍になります。このことから、誰もが気軽にEVを購入できるほどの航続距離を有するEVが登場するには、もう少し時間が必要と言えるでしょう。
▲過去50年間のEVの航続距離の変遷
加速に関しては、0mileから60mile(約0km-96km)に達する時間が10秒あれば、EVは競争力を持つと言及されています。これは、高速道路の合流時等に一般的なドライバーが安全だと感じる加速に立脚しています。既に販売されている最近のEVはこの基準を満たすものばかりです。
▲過去50年間のEVの加速の変遷
以上のように、クリステンセンが指摘した、「最高速度」、「航続距離」、「加速」において、既に最高速度、加速はEVは十分性能が到達した状態にあると言えます。すると、あとは航続距離がキーポイントとなります。
北米では、一日の航続距離が40mileに満たないというデータもあり、70mile - 80mileの航続距離があれば、消費者は十分EVを購入することが可能との考えもあることから、今の性能でも消費者がEVを買わないという訳ではありません。EVに乗られたことのある方は既に体験された事があるかも知れませんが、快適な加速性等を売りにすれば、販売数を伸ばす事は可能だと考えられます。
また、EVが徐々に広がり始めた現在、クリステンセンが予測していたよりもより、「充電インフラ」の重要性が感じられるかも知れません。EVの短い航続距離を充電スタンドの設置により補い、ユーザーの安心感を社会的に提供することで、もし将来EVが遍く普及した場合、EVの普及という事象が社会と技術が融合して起こる、新たなイノベーションの形となるかも知れません。
いずれにせよ、EVの普及はとても興味深い事例なのでしょうね。
●参考ウェブサイト
-When Will Electric Cars Compete in the Mainstream Market? (Green Car Reports)
(コラム執筆:Toyasu)
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